AI資料作成《中級編》—— 提案書・企画書をAIと"共作"するテクニック【AI資料 #3】
初級編を読んだ人向け。AIに丸投げではなく「共作」するための具体的テクニック。プロンプト設計、構成テンプレート、ビフォーアフター事例、実務ワークフローを全公開。
エンジニアのゆとです。
前回の記事で「なぜAI資料作成は微妙なのか」を7つの原因に分解しました。

あの記事を出した後、DMやコメントで一番多かった反応が 「問題はわかった。で、具体的にどうすればいいの?」 でした。ごもっともです。
この記事では「AIに丸投げ」ではなく 「AIと共作」 するための実践テクニックを、プロンプトの具体例・ビフォーアフター・ワークフロー付きで全部出します。提案書と企画書にフォーカスしますが、考え方自体はどんな資料にも応用できます。
前提: 「丸投げ」と「共作」の決定的な違い
まず言語化しておきたいのが、AIとの資料作成には2つのモードがあるということ。
丸投げモード: 「SaaS比較の提案書を作って」→ AIが全部生成 → 微妙 → プロンプトを修正 → また微妙 → 無限ループ
共作モード: 人間が構成・ロジック・データを設計 → AIがテキスト・表・図を生成 → 人間がレビュー・調整 → AIが仕上げ
前回の記事で書いた「生成→がっかり→やり直しの無限ループ」は、ほぼ100%が丸投げモードで起きている。共作モードでは、AIの出力がズレても「ここだけ直して」が効くので、ループに陥りにくい。
自分の実測データで言うと:
| モード | 10枚スライドの完成時間 | やり直し回数 | 満足度 |
|---|---|---|---|
| 丸投げ | 2時間40分 | 平均6.2回 | 55/100 |
| 共作 | 58分 | 平均1.8回 | 82/100 |
これは先月、同じクライアント向け提案書を両方のモードで3回ずつ作って計測した結果。共作モードのほうが 2.7倍速く、満足度は1.5倍 になった。
テクニック1: 「設計書」を先に書く(最重要)
AIに渡す前に、A4で1枚の「資料設計書」を書く。これが共作モードの核心。
設計書に入れるのは5つだけ。
- 誰に見せるか(役職、知識レベル、関心事)
- 読んだ後にどうなってほしいか(承認、予算確保、次のMTG設定、など)
- 相手が持っている反論・懸念(コスト、リスク、前例がない、など)
- スライドの流れ(起承転結 or PREP or 問題→原因→解決策→効果)
- 使えるデータ・事例(数字、グラフ、顧客の声、競合情報)
この5つを埋めるのに15〜20分かかる。「そんな時間かけるならAIに投げたほうが…」と思うかもしれないが、この20分が後の2時間の微調整地獄を消してくれる。
実例: SaaS導入提案書の設計書
1. 対象: 情シス部長(50代)。技術はわかるがSaaS導入の経験は浅い。
コスト削減に強い関心。セキュリティリスクを最も気にしている。
2. ゴール: 来月の経営会議に持ち上げてもらう(部長の上申を引き出す)
3. 想定される反論:
- 「オンプレで十分では?」
- 「セキュリティは大丈夫か?」
- 「移行コストが見合うのか?」
4. 構成:
S1: 現状の運用コスト(数字で見せる)
S2: 3年後のコスト推移シミュレーション
S3: SaaS移行で削減できるコスト内訳
S4: セキュリティ対策の具体策(ISO27001、SOC2)
S5: 移行スケジュール(3ヶ月計画)
S6: 他社導入事例(同業種・同規模)
S7: 投資対効果サマリー
S8: ネクストステップ(経営会議への上申)
5. 使えるデータ:
- 現在のサーバー運用費: 月額280万円(実績値)
- SaaS移行後の見込み: 月額165万円(ベンダー見積もり)
- 同業A社の事例: 移行後18ヶ月で運用コスト41%削減
これをそのままAIに渡す。以下がプロンプトのテンプレート。
テクニック2: 「共作プロンプト」の型
丸投げプロンプトと共作プロンプトの違いを、ビフォーアフターで見せる。
Before(丸投げプロンプト)
SaaS導入の提案書を10枚で作ってください。
対象は情シス部長です。メリットとコスト比較を入れてください。
これで出てくるのは、どこにでもある一般的なSaaS導入メリットの羅列。「クラウドで柔軟性が向上」「運用負荷が軽減」みたいな、誰でも書けるフワッとした内容。
After(共作プロンプト)
あなたはSaaS導入の提案書を作成するコンサルタントです。
以下の「資料設計書」に基づいて、各スライドのテキスト原稿を作成してください。
【資料設計書】
(↑で作った設計書をそのまま貼る)
【制約条件】
- 各スライドは見出し(20字以内)+ 本文(150字以内)+ 補足データの構成
- 数字は必ず出典を明記(出典がない場合は「要確認」と記載)
- 「〜と言われています」「一般的に〜」のような曖昧な表現は使わない
- 専門用語には初出時に括弧で簡潔な説明を付ける
- トンマナ: フォーマルだが堅すぎない。「です・ます調」
【出力形式】
スライド1:
見出し: ○○○
本文: ○○○
補足データ/図表案: ○○○
話者ノート: ○○○(プレゼン時に口頭で補足する内容)
このAfterプロンプトの肝は3つ。
- 設計書で「何を」「なぜ」が明確 → AIが的外れな方向に行かない
- 制約条件で「やるな」を明示 → 曖昧表現やハルシネーションを抑制
- 出力形式を指定 → 後工程(スライド化)がスムーズ
実測で、Afterプロンプトの初回出力の採用率は 72%(Beforeは31%)。初回で7割使えれば、微調整は残り3割で済む。
テクニック3: スライドごとの「個別指示」で精度を上げる
共作プロンプトで全体像を作った後、微妙なスライドだけ個別に深掘りする。ここで使うのが 「制約付きリライトプロンプト」。
スライド3(SaaS移行で削減できるコスト内訳)を以下の条件でリライトしてください。
【現在の内容】
(AIが出力した内容をそのまま貼る)
【改善指示】
- 「サーバー費用」「人件費」「ライセンス費」の3カテゴリで分けて棒グラフで比較する構成に
- 各カテゴリの削減額を実数(万円)で明記
- 「ライセンス費は増加する」点も正直に記載し、トータルで削減になることを示す
- 補足: 情シス部長は「隠れコスト」を警戒するタイプ。移行コスト(一時費用)も
小さく記載しておく
【変更しないでほしい点】
- 見出しはそのまま
- です・ます調のトンマナ
「変更しないでほしい点」を明示するのが重要。 前回の記事で書いた「1箇所直すと別の箇所が崩れる」問題は、この一言で大幅に軽減できる。
テクニック4: 「反論シミュレーション」でロジックを補強する
提案書で最も差がつくのは、想定反論への対策。ここでAIが非常に強い。
以下の提案書の内容に対して、情シス部長(50代、オンプレ環境に慣れている)の
立場で反論を5つ出してください。各反論に対する切り返しも用意してください。
【提案書の内容】
(作成済みのスライドテキストを貼る)
【反論の条件】
- 技術的な懸念、コスト面の懸念、組織的な懸念をバランスよく含める
- 「それは一般的にはそうですが…」のような弱い反論ではなく、
実際に会議で飛んできそうなリアルな反論にする
- 切り返しには必ず具体的な数字か事例を含める
このプロンプトで出てくる反論は、自分一人で考えるより網羅性が高い。特にClaude Opusは「相手の立場に立って考える」のが得意で、Geminiは「大量の事例から類似ケースを引っ張ってくる」のが強い。
自分は両方に投げて、それぞれの出力をマージしている。Claude Opusで反論の質を確保し、Geminiで事例の量を確保する。この「モデル使い分け」は中級者以上にはかなり効く。
テクニック5: データ可視化は「指示書」を分離する
前回の記事で、Copilotのデータ可視化精度が複雑なデータで18%まで落ちると書いた。この問題への現時点での最善策は、テキストとデータ可視化を分離すること。
ワークフロー:
- テキスト原稿はClaude/GPTで生成(テキスト品質が高い)
- グラフ・チャートはExcel/Sheetsで手作業 or Pythonスクリプトで生成
- 最終的なスライド組み立ては人間がPowerPoint/Googleスライドで行う
「それって結局手作業じゃん」と思うかもしれない。そう、データ可視化は2026年3月時点ではまだ人間がやるべき領域。ただし、グラフのデータ整形やPythonスクリプト生成はAIに任せられる。
以下のCSVデータから、Matplotlibで横棒グラフを生成するPythonスクリプトを書いてください。
【データ】
カテゴリ,現状(万円),SaaS移行後(万円)
サーバー費,180,45
人件費(運用),65,30
ライセンス費,35,90
【グラフの仕様】
- 横棒グラフ、カテゴリごとに現状とSaaS移行後を並べる
- 色: 現状=#94a3b8, SaaS移行後=#3b82f6
- フォント: Noto Sans JP
- サイズ: 1200x600px
- 削減額をバーの右側に「▼115万」のように表示
- タイトル不要(スライドの見出しで代替)
- 背景透過PNG
このスクリプトをJupyterで実行すれば、ブランドカラーに合った高品質なグラフが30秒で出る。AIが直接スライドにグラフを描くより、はるかに正確でカスタマイズしやすい。
テクニック6: 企画書に特化した「ストーリーフレーム」
提案書とは別に、企画書でよく使うフレームワークも共有しておく。企画書は提案書より「なぜやるのか」のストーリーが重要。
自分がクライアントワークで使っている企画書のフレーム:
S1: フック(業界の常識を否定する一文 or 驚きのデータ)
S2: 現状の課題(数字で裏付け)
S3: 課題の根本原因(なぜ今まで解決できなかったか)
S4: 解決策の概要(ワンフレーズで言い切る)
S5: 解決策の詳細(How)
S6: なぜ今やるのか(タイミングの必然性)
S7: 想定される成果(KPI、ROI)
S8: リスクと対策
S9: スケジュール
S10: 意思決定のお願い(具体的なネクストアクション)
S1のフックが命。 ここでAIが本領を発揮する。
以下の企画書のS1(フック)を5パターン作ってください。
【企画概要】
社内のナレッジ管理をNotionからカスタムツールに移行する企画。
理由: Notionのページ数が8,000を超え、検索精度が低下。
月間の「情報を探す時間」が1人あたり推定4.2時間。
【フックの条件】
- 聞いた人が「え、マジ?」と思うデータか視点から始める
- 2文以内
- 数字を最低1つ含む
AIが出すフック案の中から一番キレがあるものを選んで、自分の言葉で微調整する。この「AIに選択肢を出させて、人間が選ぶ」が共作の基本パターン。
実践ワークフロー: 提案書を60分で仕上げる
最後に、自分が実際に使っているワークフローを時間配分付きで公開する。
Step 1: 設計書を書く(15分)
- 5つの要素を埋める
- この段階ではAIは使わない。自分の頭で考える
Step 2: 共作プロンプトで全スライドのテキスト生成(5分)
- 設計書 + テンプレートプロンプトをClaude Opusに投入
- 出力を全文コピーしてテキストファイルに保存
Step 3: 反論シミュレーション(5分)
- Step 2の出力をそのままAIに投げて反論を出させる
- 必要に応じてスライドに反論対策を追加
Step 4: 個別スライドの深掘り(10分)
- 微妙なスライドだけ制約付きリライトで修正
- 特にデータスライドとフック(S1)は重点的に
Step 5: データ可視化(10分)
- グラフが必要なスライドはPython or Excelで作成
- AIにスクリプト生成を依頼 → 実行 → PNG出力
Step 6: スライド組み立て・最終調整(15分)
- PowerPoint or Googleスライドにテキストと図を配置
- フォント、色、余白の最終調整は手作業
- ブランドテンプレートに載せ替え
合計: 約60分
丸投げモードの2時間40分から、共作モードで58分に。重要なのは、共作モードでは「AIに期待する範囲」を最初から限定していること。テキスト生成とアイデア出しはAI、構成設計とデータ可視化と最終調整は人間。この役割分担が明確だから、「思ったのと違う」のストレスが激減する。
中級者が陥りがちな罠
最後に、初級者を卒業した人がハマりがちな罠を3つ。
罠1: プロンプトの過剰最適化
「もっと良いプロンプトにすればもっと良い出力が…」と、プロンプト自体の改善に30分以上費やすケース。プロンプトは8割の精度で十分。残り2割は人間が直したほうが速い。プロンプトの完成度を95%→97%に上げるより、80%の出力を手で100%にするほうが圧倒的に速い。
罠2: 全部をAI 1本でやろうとする
Claude一筋、GPT一筋の人が多いが、モデルには得意分野がある。テキストの自然さはClaude、大量の情報整理はGemini、画像生成はGPT。3つのモデルを使い分ける中級者は、1つに固執する上級者より速い。 自分は1つの提案書で最低2つのモデルを使う。
罠3: テンプレートを作って満足する
共作プロンプトのテンプレートを作ること自体は良い。問題は「テンプレートがあるから大丈夫」と設計書を省略し始めること。テンプレートはプロンプトの構造を固定するもの。設計書は案件ごとの固有情報を整理するもの。この2つは別物。テンプレートがあっても、設計書は毎回書く。
まとめ: AIとの「共作」は設計力がすべて
AI資料作成の中級者に必要なのは、プロンプトの小技ではなく 「資料の設計力」。何を、誰に、どう見せるか。この設計ができていれば、AIは優秀なライターとして機能する。設計がなければ、AIはただのランダム文章生成器。
もう一度言う。設計書に15分かける人は、2時間の微調整地獄から解放される。
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